「どちらかではなく、どちらも。その考えが大切」ーー希望以上の転職を叶えたIさんが思う、働きやすい環境の作り方
障害者の「はたらく」を取り巻く環境は、理想と現実が乖離しているのが現状です。民間企業であれば、全従業員の2.3%に相当する障害者を採用する義務があります。しかし、その水準を満たせている企業はほとんどありません。 また仮に就職することができても、障害への理解のなさから生まれる人間関係に悩み、早期退職をしてしまう雇用者がたくさんいます。能力的に十分こなせる仕事だったとしても「障害者だから」という理由で、採用してもらえないこともあるそうです。 障害者雇用バンク編集部は、そうした障害者の“リアル”をインタビューし、正しい理解を届けることで、よりよい“はたらく”を実現します。 第三弾となる今回は、障害者雇用バンクを通じて東証一部上場企業への転職を決められたIさんにインタビュー。 障害者が働きやすい環境を作るために必要なことや、転職のコツなど、是非参考にしていただきたいお話をお伺いできました。
※本インタビューはリモートにて実施しており、掲載されている画像はすべてイメージとなります。
周りの環境で悩み、周りの環境に支えられた
—— Iさん、本日はよろしくお願いいたします。まずはIさんがお持ちの障害について教えてください。
Iさん:生まれてくる際、脳に十分な酸素が届かなかったことが原因で「脳性麻痺」をもつことになりました。両足に麻痺があり、かかとが地面に着かないので、爪先立ちのような状態でないと歩けないですね。
—— これまで障害を持った状態で生活をされてきたかと思いますが、学生時代や働く上で、障害が不利に働いた経験などはございましたか?
Iさん:それはもちろんありました。他の人にはできて自分にはできないことがたくさんあるので、どうしても周りと比べてしまうことが多かったですね。特に学生時代は、障害を理由に同級生から避けられてしまった経験なんかもあったので、余計に自分は周りの人とは違うって実感してしまいました。
—— 今でもそういった気持ちはございますか?
Iさん:全くない訳ではないですが、周りと自分を比べることはかなり減ったと思います。私自身が大きく変わったというよりは、周りの環境が変わったことが大きいです。特に社会人になってからは、今の職場でもそうですが、周りの方々が、私が障害を持っていることを重く捉えず接してくれているので、必要以上に自分の障害を気にすることはなくなりました。
職場を変える選択肢を持つことが大切
—— 前職では、障害を持たれた方に関わるお仕事をされていたそうですが、具体的にどんなお仕事をされていたんですか?
Iさん:前職では、身体障害や発達障害を抱えた子供たちのサポートをする仕事をしていました。
—— 子供を相手にする仕事となると、肉体労働に近い業務もあったかと思いますが、そのお仕事を選んだのは、ご自身が障害をお持ちであることも関係してますか。
Iさん:それも1つの理由でした。ただ、偶然の縁がいちばんの理由ですね。その仕事を始める前は、事務の仕事をしていましたが、その時に資格を取得したんです。そしてその資格が生かせる仕事をしたいなと思っていたところ、当時働いていた職場の方から、その仕事を紹介していただいたんです。
—— 前職では、ご自身の資格を生かし、そしてやりたいと思っていた仕事ができていたかと思いますが、そちらをやめて転職しようと思われたきっかけはなんでしたか。
Iさん:お給料の面と、業務内容の面ですね。給料の面については、そんなに低かった訳ではないんですが、結婚したこともありもっと安定した収入が欲しいかなと思うようになりました。 業務内容については、当時は職場そのものの立ち上げから始まったので、しっかりと決めないまま働き始めました。最初の頃は事務作業が多く問題なく働けていたんですが、徐々に体を使う業務が増えてきて。そうなると障害を持っていることもあって、このまま続けるのはきびしいかなと思い、これらの問題を解決できるところで働きたいなと転職を決めました。
頼ることで希望以上の結果が生まれる
—— 今回の転職活動において、重視されていたポイントはありましたか。
Iさん:前職の反省も生かして、転職のきっかけになった2つの理由を解消できる職場に行きたいと思ってました。なので前職よりもお給料などの条件がよく、また体に負担をかけない事務職での転職ができるようにと考えてました。
—— 前回の転職は、お知り合いからの紹介だったとのことで、普通の転職活動をされたのは今回が初めてだったかと思いますが不安はありませんでしたか?
Iさん:それはもちろんありましたね。不安もありましたし、事務職の経験が豊富でもなかったので、1年くらいかけてじっくりと転職活動をしていこうと思っていました。
—— 長期での転職活動を検討されていたんですね。ですが障害者雇用バンクにご登録いただいてから、2ヶ月足らずで転職されたかと思いますが、その要因はどういったものでしたか。
Iさん:担当カウンセラーの方のご対応がとても早かったことがいちばんの理由だと思います。最初のカウンセリングで「1年後くらいを目処に」とお話をさせていただいたんですが、面談が終わってからすぐに私の希望条件に合った企業を提案してくださったり、その後の選考もスムーズに進められるようにサポートしてくださいました。その対応の早さが背中を押してくれましたね。
—— 想定よりもかなり短い期間で転職先を決められましたが、入社前と入社後でギャップは生まれませんでしたか?
Iさん:悪い意味でのギャップは今のところないですね。良い意味でのギャップだと、思っていたよりも多くの障害者の方が働かれていらしゃったことです。会社全体が障害者雇用に慣れていて、適切な配慮をもらいながら安心して働くことができています。 現在は総務部に所属しているんですが、人間関係もとても恵まれていると感じます。特に私が入社した少し後に異動されてきた方がいらっしゃるんですが、年齢は結構離れているのに仲良くしてくださって。 これまで大手企業で、たくさんの人と働いた経験がなかったので色々と不安なことはあったんですが、もうその不安もなく、楽しく働けています。
お互いのことを考え合うことが、働きやすい環境を作る
—— Iさんが考える「障害者が働きやすい環境」について教えてください。
Iさん:シンプルな答えになってしまいますが、やはり多くの障害者の方が働いている企業だと思います。障害を持ちながら安心して働くためには、適切な配慮をもらうことが必要不可欠です。 今の私の職場もそうですが’、たくさんの障害者の方が働いているということは、企業側も適切な配慮をすることに慣れています。また周りに配慮をもらいながら働いている方が多いことで、困った時に自分も周りに頼りやすくなると思います。 我慢しながら無理に働いて、障害を悪化させてしまっては元も子もないので、特に初めて障害者雇用で働く方には、そういった職場をおすすめします。
—— 障害者の方が安心して働くためには、企業側の適切な配慮が必要不可欠なんですね。
Iさん:そうですね。ただ自分ができることに対してまで配慮を求めるのは辞めるべきです。過度な配慮まで求めてしまうと、企業側も必要以上に構えてしまい、結局配慮する側も受ける側も働きにくくなってしまうと思います。 なのですぐに「障害があるから、障害者だから」って気持ちを出すのではなく、「これはできるけど、この業務は難しいので配慮をお願いします」と伝えることが自分が働きやすい環境を作ることにつながると思います。
—— 最後に現在転職を考えている方々にアドバイスをお願いします。
Iさん:この場では少し言いづらいことではあるんですが、使えるものはどんどん使っていくべきだと思います。 転職活動ってなかなか自分一人の力ではうまくいかないと思うんです。なので障害者雇用バンクさんみたいなサポートしてもらえるサービスをどんどん活用して、自分の負担を減らすほうが良い結果につながると思います。 人に頼ることは何も間違ったことではないですし、私自身も今回サポートをしていただいたおかげで今の職場に出会うことができました。 これは転職活動だけじゃなく、働き始めてからも同じですが、自分でできることは自分で頑張るべきだとは思いますが、頼るべきところは頼りましょう。
障害者の方が働きやすい環境を作るためには、本人の努力と企業側の配慮のどちらもが欠けてはいけないんだと再認識しました。 どちらか一方だけでなく、お互いがお互いのことを考えることで、企業側にとってもその企業で働く障害者にとっても良い結果が生まれる。このIさんの考えが広まれば、「誰にとっても働きやすい会社」がどんどん増えていくだろうと思います。 これは働く障害者と雇う企業だけでなく、社会全体の目標にするべき考えなのかもしれません。
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