ADHDで障害年金は貰える?不支給になる3つの原因と認定基準をわかりやすく解説

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障害があることによって生じる、金銭的負担を軽減するための制度である障害年金。条件を満たすことができれば、発達障害であるADHDも受給対象となる障害です。

本記事では、ADHDの人が障害年金を受け取るための条件について、具体的な例を挙げながら解説します。

ADHDとは

ADHDの概要

ADHD(注意欠如・多動症)は、脳の働き(注意・行動のコントロールなど)に特徴がある発達障害のひとつです。

主な特性は「不注意」「多動性・衝動性」に分けられ、具体的には「時間管理や計画が苦手」「じっとしていられない」「思いついた行動をすぐにしてしまう」などの傾向が見られます。

同じ発達障害の一種であるASD(自閉スペクトラム症)とは異なり、言葉や知的発達の遅れを伴わないことが多い一方で、環境によっては学業や対人関係への適応が難しい場合があります。

そのため、学校や職場では支援や配慮を受けることが大切です。

特に就労面では、業務スケジュールの管理が難しい、同じミスを繰り返す、集中が続かないなどの困難が見られることがあります。こうした場合には、職場に「合理的配慮」を求めることが推奨されます。

出典:政府広報オンライン国立障害者リハビリテーションセンター日経メディカル

ADHDの障害特性

ADHDの特性は「不注意」と「多動性・衝動性」に大きく分けられます。

【不注意の症状】

【多動性・衝動性の症状】

ADHDの特性は、「不注意が強いタイプ」「多動・衝動が強いタイプ」「両方の特性があるタイプ」に分かれます。

また、症状の現れ方や強さは環境や年齢によって変化するため、自分の特性を理解し、生活や仕事の中で対策を取ることが重要です。

出典:NCNP病院たわらクリニック

障害年金とは

障害年金は、病気や障害によって「仕事や日常生活に大きな制限が出ている」と認められた場合に支給される年金制度です。

障害年金には2つの種類があります。

また、障害厚生年金の認定基準に満たない程度の障害が残った場合には、「障害手当金」と呼ばれる一時金が支給されることもあります。

障害年金には障害基礎年金と障害厚生年金があり、初診日に国民年金に加入していた場合は障害基礎年金、厚生年金保険に加入していた場合は障害厚生年金を受給できます。

障害厚生年金の対象より軽い障害が残ったときは、「障害手当金」という一時金が支給される場合もあります。

障害手当金については、こちらの記事「障害手当金とは?もらえないケースや金額・申請方法・デメリットまでわかりやすく解説」にて詳しく解説しています。

出典:日本年金機構

ADHDで障害年金を受給できる?

結論から言うと、ADHD(注意欠如・多動症)でも、日常生活や仕事に著しい制限があると認められた場合は障害年金を受け取れます。

ただし、診断名だけでは対象にならず、

などが審査で重視されます。

ADHDを含む発達障害は、下記のような生活や就労の制限がある場合に、障害年金の対象になります。

【障害年金の認定基準】(出典:大阪障害年金サポートセンター

等級の判定に関しては、「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」により、全国統一の基準で判定が行われています。

実際の判定では、

といった個別の事情が重視されます。

そのため、就労ができている場合であっても、単に働いているかどうかではなく、どのような環境でどの程度の支援を受けながら働いているかが重要な判断材料となります。

1級に該当する具体的な状態

身の回りのことがほとんどできず、常時介護が必要な状態が該当します。

意思疎通が極めて困難で社会生活が不可能な状態であり、在宅であっても家族の常時個別援助を受けている必要があります。施設入所している場合も、1級の認定が検討されます。

2級に該当する具体的な状態

単独での日常生活は困難で、援助なしでは生活できず、就労も原則困難な状態が該当します。

就労については、障害者雇用によって働いている場合でも、常時管理や指導を受けており、仕事内容が単純かつ反復的な作業に限られている場合や、他の従業員との意思疎通が困難で、臨機応変な対応ができない場合には、2級に該当する可能性があります。

3級に該当する具体的な状態

一般枠での就労は難しいながらも、適切な配慮があれば一般就労が可能な状態です。日常生活はある程度自立しているものの、複雑な状況や予定外の出来事への対応など、困難な場面では援助が必要となります。

また、3級は障害厚生年金のみの等級であり、障害基礎年金には存在しません。

障害手当金に該当する具体的な状態

障害手当金は、3級に満たないものの、一定程度の労働制限がある場合に支給される一時金です。

初診日から5年以内に症状が固定されており、これ以上治療による改善が見込めない状態であることが条件で、厚生年金加入者のみが対象となります。

出典:はじめて障害年金サポートセンター日本年金機構厚生労働省政府広報オンライン

ADHDで障害年金を受け取るための条件

ADHDで障害年金を申請するには、次の3つの条件すべてを満たすことが必要です。

以下の条件を満たしていれば、正式に申請手続きを進められます。

初診日の年金加入状況

ADHDの症状で初めて医師の診療を受けた日にどの年金に加入していたかで、受給できる年金の種類が決まります。サラリーマンや公務員なら厚生年金加入者として障害厚生年金(1~3級)の対象となり、自営業者や学生、専業主婦なら国民年金加入者として障害基礎年金(1~2級のみ)の対象となります。

保険料の納付要件

初診日の前日時点で、原則として加入期間の3分の2以上の期間で保険料を納付または免除されているか、直近1年間に未納がないことが必要です。初診日より後に保険料を納めても要件を満たすことはできないため、日頃からの納付が重要です。ただし、20歳前に初診日がある場合は保険料納付要件は問われません。

医師の診断書に基づく障害の程度

精神の障害用診断書で、日常生活能力(適切な食事、身辺の清潔保持、金銭管理、他人との意思伝達など)が4段階評価され、これらと日常生活能力の程度(5段階評価)を組み合わせて障害等級が判定されます。診断書作成時は、日常生活の困難さや職場での配慮内容を医師に詳しく伝え、実態が適切に反映されるようにすることが重要です。

出典:政府広報オンライン障害年金支援ネットワークはじめての障害年金申請代行センター

ADHDで障害年金を申請する方法

必要書類

<診断書>

ADHDの場合は精神の障害用診断書を使用します。日常生活の困難さや職場での配慮内容を医師に詳しく伝え、実態が適切に反映されるようにすることが大切です。

<病歴・就労状況等申立書>

発病から現在までの通院歴、就労状況、日常生活の様子を記載します。ADHDによる困りごとを具体的に書くことで、審査員に状況を理解してもらいやすくなります。

<受診状況等証明書>

初診日を証明する書類で、最初に受診した医療機関で作成してもらいます。初診時と診断書作成医療機関が同じ場合は不要です。

申請の流れ

1.年金事務所で相談:まず年金事務所で初診日の確認と保険料納付要件を確認し、必要書類を受け取ります。障害基礎年金は年金事務所以外に、お住まいの市区町村役場でも必要書類を受け取ることができます。

2.書類準備:医師に診断書作成を依頼し、病歴・就労状況等申立書を作成します。診断書は内容を必ず確認し、提出前に全書類のコピーを取ります。

3.審査・結果通知:

書類を提出すると審査が行われ、支給が決定した場合は「年金証書」が届きます。支給開始は、通常は決定から1〜3ヶ月後が目安です。

出典:日本年金機構

ADHDで障害年金を受給できた事例

ADHDによって障害年金を受給できた事例を紹介します。

障害基礎年金2級の受給対象となった事例

ADHDによって障害基礎年金2級の受給対象となった20代女性の事例を紹介します。

こちらの女性は、幼少期から落ち着きがなく、忘れ物や衝動性など、多くの障害特性に悩んでいたそうです。大学進学後もアルバイトで同じミスを繰り返し、注意されても改善できず、対人関係にも支障が出たため受診し、ADHDと診断されました。

仕事や生活への影響が大きく、障害年金の申請を決意。初診から同じ医療機関に通っていたため手続きはスムーズに進み、診断書には仕事内容や職場での配慮内容を詳しく記載。結果、日常生活に支障があると認められ、障害基礎年金2級に認定。遡及分約143万円と年額約78万円を受給することができました。

出典:群馬障害年金相談センター

障害厚生年金3級の受給対象となった事例

ADHDとうつ病により、障害厚生年金3級の受給対象となった30代男性の事例を紹介します。

こちらの男性は幼少期からいじめや家庭内不和などで孤立していたことで誰にも相談できないまま生活していました。大学卒業後も就職できず、フリーターとして働いていましたが、35歳のときに職場でパワハラを受け、うつ病を発症。通院中の検査でADHDが判明しました。

その後、障害者雇用に切り替えて働き続ける一方、日常生活では家族の支援が欠かせない状況でした。

社労士の助言のもと障害厚生年金を申請し、就労配慮の実態や生活の支援状況を丁寧に記載した結果、障害厚生年金3級に認定。年額58万円を受給することができました。

出典:札幌ソレイユ障害年金サポートセンター

ADHDで障害年金が不支給になる3つの原因

障害年金を申請しても不支給になるケースには、以下のような原因が挙げられます。

医師の診断が不十分

ADHDの特性により、診察時に自分の困りごとをうまく説明できず、実際よりも軽い内容で診断書が作成されてしまうことがあります。 たとえば、話がまとまりにくかったり、無意識のうちに「できていないことを ”できる”」と答えてしまうことで、日常生活での困難さが正確に伝わらないケースです。

その結果、審査で障害の程度が軽く評価され、本来受けられるはずの障害年金が不支給となることがあります。

また、医師によっては障害年金の診断書作成に慣れていなかったり、発達障害に関する認定基準を十分に把握していない場合もあります。 そのため、診断書には「日常生活でどのような支援が必要か」「職場でどのような配慮を受けているか」といった具体的な情報をしっかり書いてもらうことが大切です。

保険料納付要件を満たしていない

障害年金を受け取るためには、初診日の時点で保険料の納付状況が一定の基準を満たしていることが必要です。

具体的には、次のいずれかの条件を満たす必要があります。

どちらか一方を満たしていれば要件はクリアします。

注意すべき点は、初診日より後に保険料を納めても要件を満たしたことにはならないということです。 学生時代や転職期間中の未納、自営業者の納付忘れなどが原因で不支給になるケースが多く見られます。

こうした事態を防ぐために、日頃から保険料の納付状況をこまめに確認し、納付が難しいときは早めに免除申請を行うようにしましょう。不安な場合は、年金事務所で加入状況や納付記録を確認してもらうのが安心です。

なお、初診日が20歳前にある場合は、保険料納付要件は問われません。

生活や労働に制限が軽度であると判断された場合

就労しているという事実だけで、症状が軽いと見なされることがあります。

実際には、単純作業や職場の配慮を受けながら何とか働いているケースでも、診断書や申立書にその実態が十分に記載されていないと、不支給となることがあります。

また、一人暮らしをしている場合も「自立して生活できている」と誤解されやすい点に注意が必要です。実際には、部屋の片づけや食事の準備ができず、家族や福祉サービスの援助を受けながら生活している人も多くいます。こうした支援の実情を、書類に具体的に反映させることが大切です。

出典:はじめての障害年金申請代行センター障害年金支援ネットワーク

受給額の目安

ADHDによる障害年金の受給額は、等級や加入していた年金制度によって異なります。ここでは目安となる金額を解説します。
なお、金額は令和7年度(2025年度)の水準です。毎年改定されるため最新情報を確認するようにしましょう。

障害基礎年金の受給額

障害基礎年金は、国民年金に加入していた人が対象です。

【障害基礎年金の受給額(2025年度)】

また、子どもがいる場合には「子の加算」が付き、1人目・2人目は各23万9,300円、3人目以降は各7万9,800円が上乗せされます。

出典:日本年金機構

障害厚生年金の受給額

厚生年金に加入していた人が対象で、障害基礎年金に加えて報酬比例額が支給されます。

【障害厚生年金の受給額(2025年度)】

報酬比例部分は「現役時代の収入」に応じて計算されるため、加入期間が長いほど受給額も増えます。

出典:日本年金機構

子の加算や配偶者加算

子どもがいる場合には「子の加算」が付き障害基礎年金に上乗せされます。

【子の加算(2025年度)】※障害基礎年金に上乗せ

また、障害厚生年金(1級・2級)の場合、配偶者がいると年額約23万9,300円が加算されます。

【配偶者加算額(2025年度)】※障害厚生年金に上乗せ